the last piece

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愉悦部スレ主




「やりました先輩!これでコンプリートですね!」


紫髪の少女が達成感から嬉しそうな声で自分に話しかける。


大変ではあったがリストに載っている人物はこれで全員、後はこのアルバムを印刷所に渡せばギリギリサバフェスには間に合うだろう。


「では早速印刷所の方に連絡を……」

「いや、まだ1人残っている」


ユーハバッハはマシュの言葉を遮りそう言った。


「?しかしリストに載っている方は全て撮ったと思いますが……」


「…場所の特定ができなかった為にそのリストには載せていない者がいるのだ…お前には初めに言ったはずだが…」

「そうだったのですか…?」



『カワキが友人と共にいる場面も撮りたいところだが……その友人の所在が掴めぬ。二人が揃った写真を撮れるのは、いつになることか……』



「しかし……これまでかなりの箇所を撮って回りましたが、ユーハバッハ陛下が何も反応していなかったのを見るにその方は居なかったのですよね…?もしや初めからこの特異点にいないのでは……」

「そんなはずはないのだが……」


「あぁ…リオちゃんのことだね、ユーハバッハまだ諦めてなかったんだ。」

「!」


覚えのある人物に、そう聞き返す。


「どうにも巡り合わせが悪いのか中々会えずにいたが……これまでのお前達の働きを見て、お前達ならば見つけられるかもしれんと考えた。」

「あの…同名でなければ……もしや、ユーハバッハ陛下が探して居る方は水色髪が特徴の女性ではないでしょうか…」

「待て、何故知っている?まさか、会ったことがあるのか?」

「場所は分かるのか?」

「いえ…流石にそこまでは…」


「いつの間に電話番号の交換を……!しかし先輩のアシストのおかげで場所の問題は解決ですね、リオさんなら快く協力して下さるはずです!」

「……まて、そこまで親しい仲なのか…?……はぁ…なぜそれを先に言わない」


「うん、それはユーハバッハがわるいよ」

「む…」


そんなやりとりをしている傍で、マシュは小声で自分に話しかけてきた。


「マグダレーナさんは、どうやらリオさんのことをユーハバッハ陛下にお伝えしていなかったようですね……。勝手にお伝えして良かったのでしょうか…。もしかして何か理由があったのでは……」



「温厚な方なのでいきなり戦闘にはならないと思いますが…」





「こんにちは藤丸さんにマシュさん。貴方たちから呼び出すなんて珍しいね。みんな本作りは順調かな?」


そこには会った時と変わらない少女の姿があった。やはり、2日目の夜に見た彼女と同一人物には見えない。


「お忙しいところ申し訳ありません…実は今日はリオさんにお頼みしたいことがあって……」

「頼み事…?」




「私の協力……?それは全然大丈夫だけど……ところでその人は同じサークルの人?」




「藤丸くん、紹介感謝するよ。実は今サバフェスでアルバムを作っていてね。最後は君だけなんだ。」

「アルバム……あぁ、藤丸さん達が言ってた今作ってる本の題材…」

「話が早くても助かるよ。さっそくだけど撮らせてもらえないかな?」

「それは別にいいんですけど……撮影する人はどこに…?」


「そう?ならいいんだけど」


「?なにかな。」


「ん?変なこと聞くね。夜はいつも通りバイトしてたけど…。もしかして何かあった?」



「そう?ならいいんだけど。」

「じゃあやつがれ達は隠れて着いて回るから、いつも通り過ごして欲しいな」

「まぁ、あんまり面白い写真は撮れないと思いますけど……とりあえず今日一日、よろしくお願いしますね。」




「君、ちょっといいかな?」

「?なーに」

「この近くでなんだけど……」



「マグダレーナさんに頼まれたクエストでしょうか…」




聞き込みが終わると、次にリオはビーチに立ち寄り、黒髪の少女に話しかけた。


「カワキちゃん、遊びに来たよ!」

「リオさんか。……後方の気配はカルデアのマスターとマシュ・キリエライトかな。」

「今撮影中なの!カワキちゃんも映っちゃうけど大丈夫?」

「問題ないよ。もう撮られているし」

「そう?ならよかった。……あ、忘れてた。」


リオは持っていた鞄から何かを取り出す。


「はいこれ!今日のお土産!」

「……これは」


リオはどこか古めかしい酒壺をカワキに手渡した。


「この間露出度がやけに高い女の子に貰ったんだけど……お酒の名前なんだったけ…なんか神ってついてた気がするしお神酒だと思うけど……あ、もう飲んでる…」

「名前なんて大した問題ではないしね。…それより今日はかき氷を食べよう。いい店がビーチにあるんだ。」

「あれ、カワキちゃんかき氷好きだったけ」

「別にそうでもないよ」

「へぇ〜…で、何味のシロップにするの?」

「ウイスキー」



「イラッシャイマセ〜、ご注文は?」

「かき氷、氷のみで」

「またでござるか…そろそろサツが詐欺容疑ででパクリにこないか心配でござるよ…」

「君は客に商品を売っているだけだ。何か問題が?」

「アッイエナンデモ……そちらのお連れ様のご注文は?」

「私はトッピングでいちごの果物といちごかき氷、氷抜きで」

「それ意味あるでござるか!?」

「?だって氷食べてもお腹膨れないし。でも一応かき氷食べに来たんだから頼まないと失礼でしょ」

「取り敢えず詐欺だと思われたら困るのでドリンク用のカップにシロップと果物入れとくでござる…」


黒髪の少女に何もかかっていないかき氷を差し出す。


「先にカワキ殿の注文品をお渡ししておくでござるよ」

「あぁ」


商品を受け取ると、無言で持参したウィスキーを掛けながらリオが持って来た酒を飲み始める。


「い、飲酒しながらお酒がかかったかき氷を……致死量では?」

「まぁ私たちもう人間じゃないんだし別にいいと思うけど。」

「諦めたらそこで試合終了でござる!」

「一回致死量を把握しておくためにも本人が限界を知るべきだから。まぁカワキちゃんお酒引くほど強いから…それがいつになるかはわからないけどね。」

「人の心……」

「お代だ。釣りはいらないよ」

「アッハイ、……エート1、10、100…アエエ10,000QP!?マジデ!?……ちょ、カワキ殿!流石にこの金額は拙者が店長におこられるでござる!!ってカワキ殿はやッ」



「相変わらずの量だねぇ。」

「……飲みたいの?」

「飲まないよ?私弱いもん。」


そう喋って居る少女2人に、複数名の男達が話しかけて来た。


「すみませ〜ん。お二人ともひま?よかったらあっちでお酒奢るんで一緒に飲みませんか?」


その瞬間、凄まじい音が後方から聞こえる。


「?今何か…物音が……」



「そうです!娘さんが心配な気持ちは分かりますがここは堪えてください!」



「うーん、そっとしておいてあげよう。それよりどうしようか……奢って貰らう?お酒たくさん飲めるよ?」

「報酬は足りているから問題ないよ。リオさんは?」

「私?私も副業で報酬は十分貰ってるし、食事に対して別に魅力は感じないかな」

「…ビーチでの未成年に対しての不純異性交遊は禁止……だったかな。……仕方がないな、かき氷が溶ける前に終わらせよう」

「溶けてもお酒の水割りになるだけじゃないかな?」

「薄くなるからね」

「そういうものかなぁ…ま、ビーチでの暴力沙汰は私の管轄外だから、今日はカワキちゃんに任せるね」



「いいか…今からあそこの観光客を誘い出して金目のものがあれば……」

「ちょっといいかな、お兄さん達?」

「お?なんだいお嬢ちゃん。コスプレならサバフェス会場はあっちだよ。」

「光の帝国(リヒト・ライヒ)での恐喝、暴力行為は禁止、一応ルールだからさ。今からマグダレーナさんのホテルに連れてくから抵抗しないで着いてきてくれると嬉しいな」

「お、おいマグダレーナ様って陛下の妹君のマグダレーナ様か…?」

「妹……?俺は愛人って聞いたぞ」

「そんなことはいい!それよりマグダレーナ様経由で陛下にバレたら俺たち粛清されるんじゃ……」

「け、けどここに陛下が居るなんて噂聞いたことねぇぞ」

「それは向こうに着いてから話し合ってほしいな、私の退勤時間も押してるし。」



「馬鹿野郎!はいそうですかで連行されるわけねぇだろうが!!こいつを始末すれば証拠は出ねぇ!」

「平和的な話し合いは無理そうだね……後悔しない?」

「悪いがお嬢ちゃん、こんなところで第二に生を終わらせるわけにはいかねぇんだよっ」

「…私言ったからね?」



「うわ…いくらなんでもやりすぎ……これ生きてる…?」


「生きてるんじゃないかな?ほら、息してるし。」

「流石にこの状態で持ってこられても困るって毎回言ってるし…次やったら減給するからね?」

「ふふ、ごめんね?私、夏のせいなのか霊基が少し加虐気味になってるみたいなの」

「いや元からでしょうが…お綺麗な笑顔で死神や聖章騎士は騙せても、私の目は誤魔化せないから」

「酷いこというなぁ……。それより彼ら、あのままでいいの?」


かなり瀕死状態ではあるが、見た目ほど重症ではないようで、男達は人生の終わりのような顔で俯いている。


「しゅ、粛清される…」

「終わった……第二の人生でもこんなところで終わるのか…」

「いや殺さないよ?ここの兼用事業で建前上は更生施設という名の強制労働をさせるだけだし。まぁ自由時間もあるし三食食事付きで報酬も出るので囚人というより労働者……ちゃんと更生すればすぐに出られるから刑務所よりVIP対応ではあるけど」


「お、おぉ!!」」


その言葉に、死を覚悟していた男達はその言葉に思わず声を出した。


「今は猫の手も借りたいくらい忙しいからきびきび働いてもらうよ。その前に医務室に運ぶけど」

「これまで結構捕まえてるけどここの労働力全然足りないもんね。生身じゃないから寝なくていいとは言え、現世じゃ過労死レベルの仕事量なのによく捌けるよねマグダレーナさん。」

「いくら言っても聞かないのあの人は……」



「これでおおかた撮り終わった?」



「けど写真は十分撮れたし、これでユーハバッハも満足かな?」

「一時はどうなることかと思いましたが……何故でしょうか。自然と達成感に包まれます…。脱稿はすぐ目前ですね!先輩!」



「……ねぇ、今日撮った写真って見れたりする?」




「一応ね?ちゃんと変な所が写ってないか確認しろって言われてるから」






「あ〜…村正とか?まぁそれはともかく……見られる?」

「はい、特に問題は無いと思いますが……エドガーさんもそれでよろしいですか?」

「うーん、公衆に見られたくない部分とか女の子ならあるだろうし、やつがれはいいと思うよ。……よし、それじゃあユーハバッハを呼ぼうか。……ユーハバッハ、もう出てきていいよ。認識阻害も今外したからね。」


その言葉に、マシュと自分は驚く。


「「!!」」

「あ、あのエドガーさん、リオさんは…」



エドガーの言葉に、黒いパーカを羽織った青年が闇夜から姿を現す。


「久しいな。璃……いや、たしか…今はリオを名乗っているのだったか…。まぁ何はともあれ、カワキと共に夏を楽しんでいるようで安心した。」

「?ごめんなさい。どこかで会ったことありました?」

「!!」


「ど、どうやらユーハバッハ陛下本人だとは気づいていないようですね…」



「なんだろう…凄く見たことのあるカラーリングしてる人が撮影者さん?名前まで一緒なんてすごい偶然だね……でも、ちょっとまずいかな。」



「あなた達の何かが〝彼女〟の地雷だったらしいね。もう私じゃ無理っぽいし……あーごめんね、抑えられそうにないから頑張って?」

「り、リオさん?一体何を……」


困惑しているマシュをよそに、エドガーが、つぶやく。


「これはまずいね…」

「何が来ると言うのだ……?」


皆が騒然としている中、突如銃声が響いた。

瞬間、水色髪の少女の頭を直撃した。


「「!!」」

「どうやらギリギリ間に合ったようだね。」


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