the last piece3
愉悦部スレ主「やぁッ…!」
暗がりの海辺にて、複数人の攻撃が飛び交う。マシュは勢いよく、目標に盾を振り翳した。
「っこの、!」
下品であるが、それでも声を荒げずにはいられなかった。
それほどまでの劣勢、ここから自身が優勢な未来が見えないほどに、戦況を押さえれていた。
「!!この程度で、倒れたりなんて……あ、ッ!?」
死角から急所を、鉛玉で貫かれる。相手は誰だか分かっていた。相手へ攻撃をしようと体勢を変える。
しかしゲルトルードは決してカワキには攻撃しない。
───それは、事前に伝えられていたことであり、体を借りる上で守らなければならない約束だ。
(──あぁ──!)
「随分と遅い……。体力が尽きたか…それとも考え事かな。」
「この体が誰のものだか分かってるの!?あなた、この子と友達なんでしょう!?」
目標に真っ直ぐと向かおうとするが、何度も阻まれる。むしろその度にこちらが削られる。
命乞いから言ったのではない。それは疑問だった。
「……もちろん知っているよ、けどそれが何の関係が?…そんな事よりも今は自分の心配をした方が賢明だと思うけど。」
「あんたからの忠告なんていらわないわ…!」
「……?、初めて会うはずなのに随分と嫌われてしまったね、君とは初めて会ったはずなのに。」
「……ほんとにそういうところあの女とそっくりね!あぁもうっ!」
「あの女…?…何を言っているのかな。」
無慈悲に自身の住んでいた領地を焼いたあの男でさえ、親しい人物には甘かったのに、千年経とうが色濃く受け継がれている志島の血を感じ取り、顔を顰めた。
(だいじょうぶ、目の前にいるんだから、すぐそこに──!)
それは当然の行為だった。攻撃されれば、敵意を向けられれば、誰だって反撃するだろう。それはゲルトルードとて分かっていた。
志島の血とユーハバッハの血を引く子孫、ユーハバッハの愛娘、嫌う肩書きは幾つもあった、しかしそれはもはやゲルトルードにとって瑣末なことだった。
それは、潜在的嫌悪感──。
ふとした瞬間の仕草が、行動が、あまりに似すぎていた。
「このッ…!」
暗闇でも光る銃口が、こちらに狙いを定める。
「これで終わりだ。」
「──よかった、なんとか間に合いましたね。「ん……」おっと…もう少しで起こしてしまう所でした。ほら、カイン……もう少し寝ていて大丈夫だよ。」
突如、水色髪の青年が姿を現す。その腕の中にはほぼ眠った状態の黒髪の幼児を抱いている。
「「!!」」
『あなたは…』
『あの時の──!』
「彼は誰かな、君たちの知人?」
「…残念ながら私には見覚えが……先輩はご存知なのですか?」
『うん、』
『彼は』
「…まて、貴様もしや、…!…「ちょっとしつれいするよ。」ッ!何故止める!!」
「うんうん、やつがれ達はお邪魔みたいだから一足先に帰っていようね。」
「まて、エド、私は」
「最後まで任せてしまってごめんね。その代わり今日の写真は編集しておくから、じゃあやつがれ達はこれで失礼するよ。カワキちゃんもじゃあね!」
エドガーがユーハバッハを脇に抱えながらホテルへと戻っていく。
「あなた……」
「ふふ、何故でしょうか、あなたに最後に会ったのはもう随分と前のような気がします。」
「……えぇ、そうですね。」
「なぜこうなったのかについては聞きません。
……それよりも、カインが君に会うのを随分と待っていました。さぁ、はやく帰りましょうか。」
男は、ゲルトルードの手を引く。
「ま、待ってください!わたし…、ちゃんと消えてこの子に体を返さないと、」
「それは問題ありません。虚の仮面をつけた赤髪のお嬢さんが気前よく無期限で義骸を貸して頂いたからそれにお入りなさい。…これなら、この特異点が消滅するまでならば問題ないでしょう?」
「!!」
マシュと藤丸が耳打ちをする。
(それって…)
『(絶対マグダレーナさんだ…』
『(いつのまに…)』
「さぁ、皆さんにご挨拶をしてから今泊まっている宿泊先に行きますよ。」
「けど、わたし、」
男の腕の中でおずとずと何かが動く。
「…かあさま?」
「カイン…」
眠い目を擦りながら、カインは母の姿を見て嬉しそうに笑った。
「かあさまだ!やっとみつけた!もうずっとさがしてたんだよ!」
「ええ、全くです。こんなに何日も迷子になるなんて困ったかあさまですね。
…君に似合う服を見繕いました。もし、気に入れば、着てくださきますか?」
ゲルトルードは少し息を吐くと、 絞り出すように声を出した。
「……分かりました。仕方ありませんね、子供のためですから。」
一部始終を見ていたマシュがホッと息をつく。
「これで一件落着ですね。」
『そうだね』
『だけど』
『まだやることが残ってる』
「?残っている、というのは一体……』
『ゲルトルードさん!』
『待ってください!』
「あなたは……。…いいえ分かっています。自身の復讐に勝手ながらあなた達を巻き込んでしまいました。……苦言もしっかりと受け止めます。」
『そうじゃなくて』
『星5評価と』
『写真をお願いします!』
「…!先輩、それはいい案ですね!」
「……予想外の言葉だったわ、まぁそれは別に構わないけれど、……あなたもよろしいですか?」
「えぇもちろん、この子には恩がありますから。」
「恩…?……まさかまた人様に迷惑を?」
「はは、何のことだが。」
「れびゅー?ってこれ、?」
「カインは少し難しいかもね。俺が代わりに書こうか。」
「だいじょうぶ!もじはうのはなさんにおしえてもらったからかけるよ!」
「いつのまに…」
「おまえは物覚えが早いなぁ。やっぱりそこはかあさまに似たのかな?」
「あなたが不器用なだけですよ。」
「…どうやら丸く治ったようだ。」
「はい、先ほどの空気が嘘のようです!」
『そうだね』
『何はともあれよかった。』
「……」
「?ゲルトルードさんがこちらを見ていますが…何かご用なのでしょうか。」
『ほんとだ、』
『こっちに来る』
「あの、何かご用でしょうか?」
「……その、改めてだけれど。今日は悪かったわね。巻き込んじゃって。」
『それはぜんぜん!』
『全部あの人が悪いから』
「はいそうです!大元はユーハバッハ陛下が全て悪いのでお気になさらないでください!」
「それはまごう事なくそうですけれど。……けど、子供であるあなた達を巻き込んでしまいました。その一点が、今回の私の汚点です。
……殺す、殺される。奪い、奪われる。そんな負の連鎖は、大人が勝手にすればいいことでした。」
ゲルトルードは切り出したように言葉を放つ。
「…写真、今から撮るのよね?」
『そうですね。』
『はい。』
「写真はあなたが撮ってくださる?」
『別にいいけど』
『自分じゃなくてもいいんじゃ?』
「野暮な人ね。別に大した理由はないわ。ただあなたに撮ってほしいのよ。まぁ私は我儘を言える立場ではないでしょうけど──できるかしら?」
「お安いご用!」
「きれいに撮りますね!」
「えぇ、ぜひそうしてちょうだい。…初めての家族写真ですもの、綺麗に撮って欲しいわ。」
『あ、』
『カメラ、エドガーさんが持ってる』
「……それなら海に捨てられていた使い捨てのカメラがある。
多少汚れているがまだ使えるはずだ、これを使うといいよ。」
「海に捨てられていたもの……ですか?」
『つまり』
『落とし物?』
「海での忘れ物は原則マグダレーナ様の所へ持っていくのが決まりだからね。」
「ではむしろ使ってはまずいのでは…」
「今更わざわざ取りにくるとは思えないけど、まぁ所詮は使い捨てだ。気になるならもし拾い主が来れば後で似たようなものを買えばいいだけだよ。」
「それはそれでどうかと…」
『とりあえず』
『ありがたく使わせてもらおうか』
ゲルトルードは、カワキを物珍しそうに見つめた。
「…何か私に用件が?」
「……いえ、別に何も。……ただ…とても珍しいものを見たなと、そう思っただけ。」
「……それは、ずいぶんと不思議なことを言うね。君は私のことを知らないはずなのに。」
「……そうね。私もとっても不思議。」
『じゃあそろそろ』
『準備できましたよ〜』
「しゃしんってこわい?」
「あぁ、そういえばカインは初めてだったね。ふふ、もしかして怖いのかな。」
「こわくないよ!!」
「あなた、あまりいじめてはいけませんよ。」
「それではカウントダウン行きます!」
『3、2、1』